【感想・映画『私は猫ストーカー』】ゆるさ200%!偏愛人間の愛しさがつまった作品【星野真里、江口のりこ出演】

こんにちは! モリスギ!編集部のナナです。

今回紹介する【にゃんこのおすすめ】は、映画『私は猫ストーカー』。2009年に公開された劇場用作品です。

にゃんこ
にゃんこ
ス、ストーカー・・・!?こわい映画なのかにゃ?
“猫ストーカー”、散歩中についやっちゃう行動・・・(笑)
編集部ナナ
編集部ナナ

主演は星野真里さん。今飛ぶ鳥を落とす勢いの名バイプレーヤー・江口のりこさんも出演しています。

おすすめ要素はもちろん猫なのですが、映画としての良さは、ビデオカメラで撮影したかのような質感とカメラワーク。そして“独特のゆるさ”。のんびりと流れる下町の、なにげないひとときを愛でる“ぜいたく”に溢れていました。

映画『私は猫ストーカー』はどんな作品?

舞台は下町「谷根千」(谷中、根津、千駄木エリア)。古本屋『猫額洞』でバイトするイラストレーター・ハルの日常を淡々と描くハートフルストーリー。刺激は一切ありません。ゆるさ200%。情報にまみれる毎日を一度リセットしたいときにぜひどうぞ。


(C)『私は猫ストーカー』製作委員会

古本屋でアルバイトをしているハルは、イラストレーターの卵。バイトが終ればお寺の境内に駆けつけて、集まってくる猫たちを眺めるのが日課のハルは、時間の許すかぎり猫をそっと追いかける“猫ストーカー”なのです。
(C)2009「私は猫ストーカー」製作委員会  ※文章引用:Amazonプライムビデオ『私は猫ストーカー』より

本作品では、ドキっとするような事件が起きるわけではありません。かつての恋人が結婚したとか、バイト先のオーナー夫婦が喧嘩したとか、常連客にちょっと恋心を寄せられるとか、誰にでも経験したことのあるような身近な出来事が散りばめられているだけ

淡々としたストーリー展開をつまらないと思う人もいると思いますが、それはそれでいいのです。作品の受け取り方は人それぞれだから。

個人的には、可もなく不可もなくといったところ。じわじわ笑いがこみあげるシーンがいくつかあり、「ストーリーとしては特段おもしろくないのに、なぜ?」と不思議に思いながら鑑賞しました。誰かのちょっとした日常をのぞき見させてもらうことで、自分のことを客観的に見ているような感覚に。そこで気づいたのは、日常の一瞬一瞬に隠れている「やさしい時間」でした。

偏愛人間は変人。だからこそ世界を変える素質を持っている

序盤、どこにでもあるような商店街を俯瞰するシーンからスタート。ごくごくありふれた風景の中に、なにやら不思議な動きをしている人がいます。それが主人公のハル。猫を偏愛しており、バイトが終わると、町に住む猫をひたすら追いかける“猫ストーカー”になります。

路地裏を、うろうろキョロキョロ。猫を見つけるとニヤっとして地面に寝転がり猫目線を貫く。じわりじわりと猫に近づいて話しかける。その場を離れるときは、猫に小さく「バイバイ」と声をかけ控えめに手をふる。

猫好きの人にとっては“普通”のふるまいで、何の疑問も感じないですよね。でも、その姿を画面で見ていると、見事なまでに“不審者”なんです(笑)。「猫を見つけたら同じ行動をとっているけど、傍から見たらめちゃくちゃ私怪しいヤツやん?」と気づいてしまうんです。

本作では猫愛あふれる“猫ストーカー”の“狂人っぷり”を見せつけてくれます。星野真里さんが本当に猫好きなんでしょうね、ナチュラルに猫を溺愛しているのが演技からもにじみ出ています。

映画を見ている人が猫好きならば客観視できるはず。自分自身の猫への偏愛っぷりはここまで狂気の沙汰なのかと、苦笑いしてしまうかも。猫愛がそれほどでもない人は、ハルの行動に拒否反応を起こしてしまうかもしれません。

ハルの猫偏愛への対比となっているのが、ハルに好意を寄せる古本屋の常連客(宮崎将)。猫ストーカー中のハルがだんごの買い物中に声をかけ、大好きなアメリカ文学について一方的に話すシーン。ハルはまったく関心がなく目が泳いでいて、つい笑ってしまいます。

この二人からわかることは、心から好きなことって周りの目を気にもせずに夢中になってしまうということ。独りよがりという見方もできるけど、熱量をもって好きなものについて語れることの純粋さにちょっと感動すら覚えます。

極めつけは、「猫返し神社」に毎日立ち寄る猫仙人(品川徹)が大真面目にハルに語っていたセリフです。

猫一匹が周囲にもたらす恩恵は思いの外大きいんですよ。
獣なのに、食料とすみかを提供し、人の心を慰め、糞は土の栄養になる。
呼吸によって排出された水分は、上昇気流から雲になり、雨をもたらすことによって、夏は涼しくさせているのですよ。
だからもっと人類はもっともっと猫をかわいがるべきですよ。猫は世界を救うんですよ。
信じない輩もおるが、そんなことありえないなんて、そんなこと誰が言えるんですか?

飲んでたお茶を吹きました(笑)。どんな哲学やねん!と。まあ、周りから理解されないのは当たり前です。でもこんな持論を堂々と言えること自体まぶしく感じます。この正真正銘の偏愛っぷりが世界を変えることもあるのだから、世の“変人”たちの意見にも耳を傾けたいな、なんて思ってしまうのです。

“推し活”に励むみなさん、励まされますね! 堂々と胸を張りましょう!

手ブレも、画質の粗さも、世界観のひとつ

本作品で驚くのが、画質の悪さです。とりわけ平成うまれ以降の人にとっては、もしかすると不快に感じるかもしれません。とはいえ、昭和うまれの人間にとっては、懐かしさを感じるカメラワークでした。

とくに猫を追いかけるシーンは、ホームビデオで主人公を追っているような感覚。ところどころフォーカスが合っておらず、手ブレもしています。ところどころ白く色飛びしていたり。まるで、懐かしの“8ミリビデオ”で我が子の運動会を撮影したかのようなクオリティです。

また、生活音がそのまま入っているのもいいアクセントを生み出しているんですよね。車の音、道路脇にいる人々の喧騒、子どもの遊ぶ声、カラスの鳴き声などなど。まるでハルと同じ場所にいるかのような心地になりました。

映画の主人公が下町住みで猫好きということを考えると、ごくありふれた視点を大切にしたいという、おそらく狙っての演出?いや、低予算で6日間での撮影だったとのことで、必要最小限の機材で最高の撮影に挑んだとも考えられる? など、妄想がむくむくとふくらみます。

ただ、こういった演出方法は観る人を選びます。早々に脱落する人もいれば、心地よさを感じてずっと飽きずに見続けられる人も。

撮影方法含めての本作品の世界観は、「猫好きの猫に対する感覚そのもの」を表現しているのかもしれません。

気まぐれで、いつ何をするのかわからない。突然姿を現して甘えてきたかと思えば、すっとどこかへ行ってしまう。人間に都合のいい仕草はしない。そして、居心地のいい場所を見つけてはまるくなって寝ている。

猫のような世界観が好きな人は、ずっと没入して作品全体を愛でてほしい。鑑賞者のターゲットを潔くしぼった野心的な映画だと感じました。個人的には、新鮮でおもしろかったの一言に尽きます。

主題歌「猫ストーカーのうた」の狂おしい中毒性


(C)2009 浅生ハルミン /『私は猫ストーカー』製作委員会

エンディングも、ブレずにどこまでもまったり。原作者の浅生ハルミンさんの愛くるしいイラストがアニメーションになっておちゃめに動いており、存分に楽しめます。

世界観が、Eテレの「みんなのうた」そのもの。どこかアンニュイな雰囲気ではじまり、短調から長調に変調したところで静かに顔をあげて「さ、今日もがんばろっかな」というさわやかな終わり方です。

ずっと聴いていたい。誰かと歌いたい。寝ている猫のふわふわを撫でながらぽわぽわと心あたたまりたい。誰か猫ちゃんを連れてきてくれませんか?

あとがき

好きなものをひたすら追いかける。毎日起きている小さな変化を見逃したくない。だから記録する。

傍から見ると「あの人毎日同じことをして何が楽しんだろう?」と思うようなことを、まっすぐなまなざしをもって真剣に愛でている姿は、うらやましささえ感じます。

ハルと猫の絶妙な距離感も、最高に心地いいものでした。近所で猫たちに遭遇したときは、作品の最後にハルが伝授していた「猫と仲良くなる方法」を試してみようかな。

まち猫の良さと、自分の好きなことに没頭することの魅力がゆるくつまった作品でした。

◆作品情報
映画『私は猫ストーカー』
公開日:2009年7月4日
出演:星野真里、江口のりこ、宮崎将、品川徹、諏訪太朗、寺十吾、岡部尚、黒沢久子、麻生美代子、徳井優、坂井真紀他
原作:『私は猫ストーカー』浅生ハルミン(洋泉社刊)
主題歌:岡村みどり&Glenn Miyashiro『猫ストーカーのうた』
監督:鈴木卓爾
脚本:黒沢久子
エグゼクティブ・プロデューサー:多井久晃、菊池笛人
(c)2009『私は猫ストーカー』製作委員会

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