【食との対話から生まれるもの】深夜ドラマ『孤独のグルメ』主人公・井之頭五郎の「食の哲学」。コロナ禍だからこそ学ぶべきその姿勢
こんにちは!モリスギ!編集部のナナです。
いきなりですが野暮な質問から失礼します。『孤独のグルメ』というドラマをご存知ですか?
「え?あなたちょっと何言ってるの?」と総ツッコミを食らいそうですが、実は筆者はドラマを観たことがありませんでした。
2012年にドラマがスタートしてまもなく10年。Season9が今絶賛放送中です。
大衆的な食堂を好みひとり外食を堪能する主人公・井之頭五郎を松重豊さんが演じ大ブレイク。
世界にも配信され、知る人ぞ知る大人気グルメドラマなんです。
今もなお厳しい情勢のコロナ禍において、『孤独のグルメ』は食との楽しみ方を改めて強烈なメッセージ性をもって伝えてくれます。
Season1とSeason9をまとめ視聴した筆者が、井之頭五郎から学んだ「食の哲学」をご紹介します。
お品書き(目次)
『孤独のグルメ』はどんな作品?
\#孤独のグルメ 第9話今週3日(金)深夜0:17〜‼️/
第9話は福島県郡山市出張編!
福島のドライブインで出会った、パンチある焼肉定食に五郎も大満足!🥓
ゲストは #渡辺大知 さん!
ぜひご覧ください!😊#松重豊 #テレビ東京 pic.twitter.com/hRtTKDlHw6— 孤独のグルメ【テレビ東京 ドラマ】 (@tx_kodokugurume) August 30, 2021
『孤独のグルメ』は、原作・久住昌之さん、作画・谷口ジローさんによるグルメ漫画です。
輸入雑貨商である井之頭五郎が主人公、商談に訪れた街で仕事終わりに必ず食事を楽しみます。五感と直感を働けて選んだ魂心の飲食店で、一期一会の料理と心で自由に対話するスタイルが、読む人々を惹きつけます。
連載は1994年〜1996年に雑誌『月刊PANJA』にて。その後週刊誌『SPA!』にて2008年1月15日号で読み切りで復活しました。
そして、2012年。テレビ東京系の深夜ドラマ枠で映像化が決定。放送されるやいなや大人気番組になりました。
井之頭五郎役の松重豊さんが、メインの食事をおいしそうに食べる表情とツッコミどころ満載の心の声がクセになります。
実在する個人経営の飲食店が登場するため、放送終了後は“聖地巡礼”するファンも多数。
放送開始から9年、現在Season9が絶賛放送中。
Twitterの感想には、
ゴローさん観てたら食欲でちゃって困ってしまう
定食多くて、迷うのわかる!
毎週金曜日の癒やし♪
などなど、空腹を刺激されまくる視聴者が続出。
さらに、『孤独のグルメ』人気は海外へ。フランス、イタリア、スペイン、ブラジル、韓国など10カ国の地域で翻訳されています。
ドラマを端的に表現すると、サラリーマンのおっさんがひとりで黙々と食事を食べている様子を淡々と魅せられているだけのグルメドキュメンタリー番組。人々はなぜ、それほどまでに『孤独のグルメ』に惹かれてしまうのでしょうか。
「ごはんがおいしいってしあわせだ」井之頭五郎の食の哲学
いきなりですが、日本屈指の美食家といえば北大路魯山人。氏はこんな言葉を残しています。
書でも絵でも陶器でも料理でも、結局そこに出現するものは、作者の姿であり、善かれ悪しかれ、自分というものが出てくるのであります。
井之頭五郎(以下、五郎と記載)の食への姿勢は、魯山人の説く食の哲学に通じるものを感じます。
店構えやメニューでその時の食を決め、入店すると店主やスタッフに挨拶。ざっと店内を見渡しメニューにじっくりと目を通します。注文した料理が運ばれてきたら五感で味わい尽くし、食と存分に対話をするスタイル。
2012年から不変のドラマのメインテーマではこう語られています。
時間や社会にとらわれず
幸福に空腹を満たす
つかのま彼は自分勝手になり自由になる
誰にもジャマされず気を遣わずものを食べるという孤高の行為
この行為こそが現代人に与えられた最高の癒やしといえるのである
五郎の食への向き合い方は、つながりが希薄になったと言われるコロナ禍にこそ学びたい姿勢です。
「ひとりで食べる=孤独」ではない。食と真剣に向き合う時間。
『孤独のグルメ』は、五郎がひとりだけで食事を食べている様子を観ているだけの番組のように一見感じられます。
しかし、孤独感はまったく感じられません。お店を決めるときは店名や店構え、手書きポップなどで店主をイメージし表情が一瞬ほころびます。満を持して決めた店に入ると丁寧に挨拶、ぐるっと店内を見渡してメニューを吟味、他のお客さんの食べているものも真剣に観察して決めます。
食事を待つ間は、料理人の表情や一挙一投足にも熱い視線を注ぎます。
迷いに迷って決めた料理が提供されると、手をあわせて「いただきます」と一礼。
食事を噛みしめるたびに、心の声が語ります。
「どれどれ」
「お、うまい」
「煮魚ってなぜこんなに白いごはんに合うんだろう」
「こういういぶし銀のおかずがよく働くんだ」
「おしんこのことすっかり忘れていたよ、わるいわるい」
時に、食事に謝る五郎。それは、一品一品と真剣に向き合って夢中になっているからこそ、自然に出てくる言葉なのですね。
五郎の表情は、豊かに変化。存分に味わっているのが伝わってきて、見ているほうも自然にうれしくなりつられてニコニコしてしまうんです。
コロナ禍において「孤食」というワードが広まり、どこか寂しげなオーラをまとっています。
しかし、五郎スタイルで目の前の食に真剣に向き合って対話してみるとどうでしょう。食事に人格が帯びてくるかのようです。自然と、目の前の食事に感謝の気持ちがわきあがってきます。
「ごちそうさまでした」
五郎は、最後にも必ず手を合わせて静かに一礼します。食事に関わったすべての人への感謝が伝わるのが観ていて気持ちがいいのですね。
個人店の人気メニューは、ためらわず注文
五郎は、自分の流儀を貫きます。お酒が飲めない「下戸」の五郎は、先客から「一杯いかが?」と誘われても断ります。“付き合い“”のお酒は、自分が満足いく時間が過ごせないからです。
しかし、食は別。自分が「おいしそう」と感じたら、先客からのおすすめでも躊躇なく注文します。
長年通っている常連客の意見を素直に取り入れる部分は、意外と感じられるかもしれません。
そんな姿にも、五郎が大切にする流儀が見え隠れしているんですよね。
お客さんのリクエストを聞いていたら、メニューがどんどん増えていっちゃった
この食べ方、お客さんが考えてくれたの
店主や女将さんとのやり取りでわかる、お店と常連客との切っても切れない深い関係性。新参者が入る隙などなく、長年通うお客さんとつくりあげてきた味があるのだと五郎は理解しているし、その味を体験したいと思うからこそ、いてもたってもいられなくなるのです。
なるほど、人気メニューなのもうなずける
体験してはじめて、納得感をもって物事を語れます。お店の食事を通して、人柄や人情に触れているようであたたかな気持ちになります。
コンビニでもスーパーのお惣菜でも同じ。人気メニューが続いている背景を想像するだけでも、よりおうちごはんが味わい深く感じられるかもしれません。
松重豊さんの“ネガティブコメント”が、食を楽しむすべてを物語る
『孤独のグルメ』で、俳優としてブレイクを果たしたという松重豊さん。井之頭五郎イコール松重豊としてすっかり定着しました。
誠実でクールな印象ながら、下戸でおいしいものに目のない大食感。甘いものもイケてしまう。食事を口に運んでほころぶ、やわらかな表情、至福のひととき。
単なるグルメドキュメンタリードラマの片付けるだけでは、物足りない何かがあります。
新Seasonが発表されるとファンが楽しみにしているのが、松重豊さんのコメント。
このシリーズは、視聴者の方が飽きたら終わりです。(Season5)
まず、最初にこの話をいただいた時に、『誰が観るの?』って。おっさんが淡々と飯を食ってるだけで、その後にちょこちょことモノローグを入れて、それをテレビの前の皆さんがどのように楽しむのかよくわからなかった。シーズン6をやっている今でも、まだわかっていない (Season6)
視聴率も頭打ちなので、この際閉店商法で『孤独のグルメ season final 究極の晩餐』にしたらと提案しましたが、却下されました(Season7)
老けました。もう痛々しいから辞めろという声が聞こえてきたら、辞める覚悟は出来ています(Season9)
作品を自虐するのは、愛情のあらわれ。そしてファンの方を巻き込んで『孤独のグルメ』の在り方をおもしろがっているその様子に、【個人飲食店=ドラマ『孤独のグルメ』制作陣】と【常連客=ドラマファン】という関係性ができあがっているなと感じました。
新参者の筆者は、ちょっぴりうらやましさにも似た気持ちを抱いたり。
さらに、ドラマを観て筆者が驚いたのは、Season1の2012年と、Season9の2021年とで、ドラマの構成がほぼ変わっていないこと。決まり文句も音楽も変わっていません。
「食べることは、生きること」
誰が言い出した言葉なのかわかりません。しかし、食は普遍的なもの。食欲は毎日当たり前にわきます。飽きたら終わりです。
おうち時間がいつまで続くのかわからない今般の情勢。刺激がないように感じることこそ、真正面に向き合って堪能する「五郎スタイル」を取り入れることが必要なのではないでしょうか。
まとめ
俺の食に密は無い。がんばれ、飲食業界。井之頭五郎 pic.twitter.com/waQr5dKI0E
— 久住昌之 (@qusumi) January 13, 2021
Season9制作が発表された際、松重豊さんはこのようなコメントをされました。
『孤独のグルメ』は飲食店の方々と共にあります。事態が逼迫すれば最終回まで完食できません。皆様の感染対策にささえられている。ー(中略)ー 大変な状況ですけれども、だからこそ、飲食店の皆様とともに、この番組はやって参りましたので、この状況下で、やる意味があるのではないかと思っていますので、最後までお付き合いよろしくお願いします
原作者であり個人飲食店を愛する久住昌之さんも、Twitterでエールを送りました。
『孤独のグルメ』は、個人飲食店が長年つくりあげてきた人情味あふれる食文化に触れ、しあわせな気持ちになります。
どんな食にも、背景には人が関わっていて「おいしく食べてもらいたい」という気持ちがこめられているとわかります。
おうちでの食の時間、「五郎スタイル」でじっくりと味わってみてはいかがでしょうか。
そして、Season9も間もなく最終回を迎えます。コロナ禍でがんばっている飲食業界のみなさんに想いを馳せ、落ち着いたら“聖地巡礼”できますように願いをこめて。
※過去seasonは、以下の動画配信サービスでチェックできますよ!
AmazonPrimeVideo、Paravi、Netflix、Hulu、U-NEXT他
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