【コラム・映画『最初の晩餐』】ふと食べたくなる「家族の味」はありますか?

こんにちは!モリスギ!編集部のナナです。

2019年に公開された映画『最初の晩餐』を知っていますか?テーマは家族。 “通夜ぶるまい”からはじまる、ひとつの家族の物語です。

父親の死をきっかけに、数年ぶりに家族が集まります。父親が遺した一冊のノート。そこにびっしりと書かれていたのは、家族にふるまった料理と思い出。

注文していた仕出し弁当を母親がキャンセルします。ノートに書かれている料理をつくり、通夜ぶるまいとしてもてなすことに。過去にある事件をきっかけに心が離れていった家族。通夜で再び、静かにつながっていきます。家族だけが知っているごはん。そのときの食卓の思い出。こぼれる本音。揺れる想い。そして、少しずつほころびがほどけていく・・・。

家族で囲む日々のごはんを改めて大切にしたくなる映画、『最初の晩餐』の魅力を語っていきましょう。

映画『最初の晩餐』はどんな作品?

映画『最初の晩餐』は、2019年9月15日に公開された劇場用映像作品です。

監督・脚本・編集をつとめる常盤司郎さんによる長編映画デビュー作。構想7年をかけて物語をつむぎ、ご自身の父親の葬儀から受けたインスピレーションを取り入れたのだとか。

舞台は通夜からお葬式の1日。父親の死をきっかけに久しぶりに集まった家族の、再生の物語です。

忘れられない味で僕らはもう一度、家族になった。カメラマン東麟太郎は父・日登志の葬儀のために故郷へ帰ってきた。姉の美也子と準備をする中、母・アキコが、通夜ぶるまいは自分で作ると言い出した。やがて運ばれてきたのは、目玉焼き。親戚たちがざわつく中、麟太郎は気がつく。「これ、親父が初めて作ってくれた、料理です」。なつかしい手料理を食べるたび、思い出が麟太郎たちの脳裏によみがえってくる。20年前に父と母が再婚した日、連れ子の兄シュンと5人で暮らした日々のこと…。止まっていた家族の時が今、ゆっくりと動き出す。
(C)2019「最初の晩餐」製作委員会


(C)2019 映画『最初の晩餐』製作委員会

家族。多くの人にとっておそらくいちばん身近な共同体です。しかし、「家族ってなに?」と問われたらその本質を答えられますか?

ここでは【美味しいコラム】の視点で、映画に登場する「ごはん」を通じて考えていきます。

※以下、ネタバレを含む表現があります。未見の方はご注意ください。

家族をつなぐ、ごはんの時間

通夜ぶるまいは、父の味。目玉焼きからはじまって、合わせ味噌の味噌汁、きのこピザなど、次々に思い出の味がふるまわれます。

弔問客にとっては、自然に「おいしい」ともらす普通の味。でも、家族にとっては特別な一品。ひと口食べると瞬時にそのときの風景がよみがえります。当時当たり前だった味は、故人の愛情がたくさんあふれるかけがえのない思い出に変わりました。

再婚同士の2つの家族が、ひとつとなった初めての顔合わせの日。とりわけ、物心ついた子どもにとって、赤の他人がいきなりその日から家族になるだなんて感覚は「ふざけんじゃねえよ」の一言に尽きます。いきなり家族と言われても、どんな顔をして過ごせばいいのかわからない。

そんな初顔合わせの日に、母・アキコ(斉藤由貴)が盲腸で倒れていきなり1週間入院することに。

普段料理をしない父・日登志(永瀬正敏)、晩ごはんはさあどうする?買うのか?と思ったら、キッチンに立ちました。ハムのかわりにスライスチーズを敷いた目玉焼きと、大量のポテトフライ。

子どもたち3人が初めて口にした、父の味。ジャンキーでツッコミどころの多いごはんは、会話を生みます。アキコの高校生の子ども・シュン(楽駆)と、日登志の小学生と幼稚園の子ども・美也子(森七菜)と麟太郎(外川燎)がはじめて笑顔で言葉を交わした時間でした。

はにかむ日登志の表情には、ひと仕事終えたという安堵感が伝わってきます。父親としてのプライドだったのかな?なんて想像すると、微笑ましくて思わず笑ってしまいました。

大人になった麟太郎(染谷将太)は、すっかり目玉焼きのことなんて忘れていたんですけどね。でも、忘れていた記憶が瞬時に戻るんです。不思議ですよね、体が家族の時間を覚えているから。

毎日のごはんは「当たり前」だったのに、大人になって家族を離れると消しゴムで消したかのように思い出はいつしか薄れていってしまう。

「ごはんやでー。降りてきいや」

筆者のごはんの思い出でといえば、この言葉。一軒家の2階にある自分の部屋に閉じこもっていたから、夕飯時は必ず階下でおかんが呼んでくれました。まず先におかんの声が思い起こせるって、とてもしあわせなことですね・・・。

じゃがいもと玉ねぎのあっさりした味噌汁。そして急須で淹れたあたたかいお茶。この2品がそろうと、ああ、おかんの味だなと懐かしい気持ち。食後には必ず旬のくだものを出してくれました。

今は筆者が、味噌汁とくだものを、自分の家族に当たり前のように出しています。おかんのやってくれたことが、自分の体に染み込んでいるんだと改めて実感できたような。

こうやって日常を振り返ると、毎日のごはんを通じて「家族」はつながっている。目には見えないけれど、確かに途切れずにつながっていました。

映画の話に戻り、通夜ぶるまいは故人を囲む最後の食事。家族葬など縮小傾向にある令和の葬儀スタイルに、『最初の晩餐』のお見送りのカタチは大いにアリだなと感じます。

仕出し弁当で済ますのもひとつの方法。でも、味噌汁など一品だけでも思い出のごはんを添えると、より家族の思い出話がふくらむかもしれません。

葬儀シーンで改めて問う「家族ってなんだろう?」

映画で印象的だったのは、映画の主要家族東家以外の親戚の姿。

葬儀になると数年ぶりに、いや、初めて顔合わせする人たちっていますよね。遠い血縁なのだけど、突然「家族」と言われるのも不思議な感覚。そんな不思議な“親戚あるある”が見事に描かれています。

子どものときに会って以来連絡すらとっていない親戚のおじさんが「大きくなったなあ、今仕事なにしてるの?」と聞いて、お酒を飲んでウザいお説教をしてきたり。また、故人とそこまで親しくなかったはずの遠縁の家族が、通夜ぶるまいでさぞ故人と深い付き合いだったかのように饒舌に話し出したり。

家族以上に話したがるのはなぜでしょう? 想像の世界で好き勝手なことを言っているからかもしれません。ワイドショーのコメンテーターのようなイメージでしょうか。

ラスト、ある事件をきっかけに姿をくらました兄・シュン(窪塚洋介)が葬儀に参列して久しぶりに家族と再会、親戚たちを皮肉たっぷりに笑います。

「あいつらはオヤジのことなんにも知らないし、無責任だからすぐ忘れちゃうよね」

シュンはアキコの連れ子で、日登志とは血はつながっていません。でも山岳という共通の志を通じて、親子の絆を深めていった仲です。

山のおもしろさを教えてくれ、人生の目標をつくってくれたきっかけが父・日登志。いつしか実質の血縁関係にある美也子(戸田恵梨香)と麟太郎(染谷将太)よりも、強固な親子関係を築いていました。

日登志が亡くなる前、リクエストのすき焼きをふるまったシュン。死を目前にした日登志に寄り添ったからこそ、シュンから語られる少ない言葉には重みとあたたかみがあります。

終盤、彼女と同棲しているものの結婚していない麟太郎の問いがまっすぐに刺さります。

(麟太郎)
ねえ、家族ってなに?
おれ、わかねえんだよ。
姉ちゃんはなんで家族をつくったの?
わずらわしいだけじゃないの?
(美也子)
(・・・無言・・・)
(アキコ)
・・・(家族って)わずらわしいわよね
そんなの当たり前じゃない
だってうまく説明できないんだから

家族とはなんでしょう? 筆者はずっと「共同経営体」というなんとも冷たいイメージでとらえていました。しかし映画を観て改めてじっくり考えると、イメージする言葉だけが湯水のようにあふれ、どうにもまとまりません。

なくてはならないもの、愛おしい、手を差しのべる、協力する、補完し合う、距離感が近すぎる、めんどくさい、ウザい、お節介、たまには一人になりたくなる、でもかけがえのない存在・・・。矛盾のかたまりですね。

公式サイトに、「家族とは?」の問いについて演者の直筆メッセージが掲載されており、戸田恵梨香さんの言葉が心に残りました。

家族というものの本質を知っているのだろうか。知らないかもしれない。
そんな可能性あることが嫌でした。
撮影して思ったのですが「諦めないで繋がり続ける」
それを経てようやく答えに辿り着くようなそんな気がしました。
戸田恵梨香

「諦めないで繋がり続ける」。

ケンカしてぶつかって傷つけあっても、わかり合えないことがあっても、どうしても理解できないことがあっても。

そのたびに離れてまた家族のもとに戻ると、不思議な感覚がわきあがってきます。説明できないけれど、じんわりとあたたかいもの。どこかくすぐったささえ感じます。

「家族とは?」への問いの答え。ひとりひとりが途方もない時間を経て見つけていくものなのかもしれません。ぜひ映画をご覧いただき、思い思いに考察を深めてほしいと思います。

まとめ

毎日の食事は、生きるための営み。家族は、その食事を毎日共にします。そして、食事の場には、会話があります。おそらく、このスタイルは何千年も前から変わっていないでしょう。

生きるための食事を、家族を思って手間と時間をかけて準備します。その思いが愛情となり、共有する時間がかけがえのない思い出になっていく・・・。

当たり前にあるごはんの時間を、改めて家族で大切に過ごしたくなります。そして、離れて住む家族に会ってごはんをふるまいたくなるかもしれません。

素朴なごはんと家族が再びつながっていくとても美しい映画『最初の晩餐』、ぜひ見てみてくださいね。

◆作品情報
映画『最初の晩餐』
公開日:2019年11月1日
出演:染谷将太、戸田恵梨香、窪塚洋介、斉藤由貴、永瀬正敏、森七菜、楽駆、牧純矢、外川燎、池田成志、菅原大吉、カトウシンスケ、玄理、山本浩司、小野塚勇人、奥野瑛太、諏訪太朗他
監督:常盤司郎
脚本:常盤司郎
配給:KADOKAWA
(c)『最初の晩餐』製作委員会
公式サイト:http://saishonobansan.com/

※動画配信サイト
U-NEXT、Hulu、 AmazonPrimeVideo 他



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