東日本大震災と“奇跡の窯”。おいしい米と有機肥料の関係性の秘密とは?【インタビュー記事】
普段、何気なく食べているお弁当の「お米」。そこにも作り手達の様々な「想い」が込められています。
今回は、私(編集長)のお店「楽ごはん」も埼玉県戸田市からお弁当を配達していますので、そこで使用しているお米の作り手さんにも地域の食を支えていただいている一人として取材をさせていただきました。
<お話をうかがった人>
及川裕康さん:米農家(宮城県登米市)
阿部日出男さん:有限会社東北グリーン(宮城県石巻市)
<取材・写真撮影>
佐藤エリコ(ライター・宮城県在住)
お品書き(目次)
おいしい米づくりのベースは、自然豊かな風土とこだわりの肥料
(左:有限会社東北グリーン 阿部日出男さん 右:米農家 及川裕康(ゆうこう)さん)
宮城県きっての米どころ、県北地方。周囲を山地に囲まれた広大な平野には田園地帯が広がります。肥沃な土壌、清らかな水など、おいしいお米を育てる環境が揃う、最高の場所。
そして農家さんが丹精込めて作り出す米への熱意で、お米がさらに美味しくなります。
今回“お米のこだわり”を伝えてくれたのは、農家の及川さんと肥料販売で活躍する阿部さん。
「米づくりがおもしろい」と語る二人の話を通して見えてきた、「おいしいお米づくり」にかける想いとは?
――「楽ごはん」のお弁当に使われているお米、 宮城県登米産「ひとめぼれ」にはかなりこだわりがあるようですね。
及川 私が生産しているひとめぼれは、農薬や化学肥料を極力使用せず、有機肥料にこだわって作っています。阿部さんの肥料に出会ってから3年が過ぎ、今年で4年目になります。
東日本大震災を切り抜けた、肥料の乾燥庫 【奇跡の窯】
――阿部さんの会社の肥料を使用するきっかけとなったのは東日本大震災だったとか。どういった経緯でこの肥料に出会われたのでしょうか?
及川 もともとは共通の知人を介しての紹介です。減農…農薬を減らす取り組みに興味があり、良い有機肥料を探していたところでした。阿部さんの肥料は無農薬栽培の肥料としても昔から有名なんです。その中で、阿部さんの扱う肥料を作る【奇跡の窯】が気になって。
阿部 【奇跡の窯】は肥料を600℃~700℃で乾燥させるドライヤーのことです。
東日本大震災の時、北上川の河口にある工場は被災し、たくさんの物が散乱した瓦礫の中、肥料を作っている窯だけが奇跡的に助かりました。3月11日はちょうど肥料を出荷する日だったんですが。その積み出しトラックが蓋になって助かったんです。原料のタンクが空の状態じゃなかったこと、止めてあったトラックが津波の壁になったこと…。
及川 そのさまざまなラッキー…というか、偶然が重なって生き残った窯が「すごいな」と思ったんです。その話を聞いた時に、これは声をかけてみよう、使ってみたいな、と。ありえないような話に魅かれました。そこが決め手になりましたね。
微生物がうまく働くと、良い土ができて、良い作物ができる
――及川さんの田んぼで使っている【奇跡の窯】で作った肥料について教えてください。
阿部 魚のエキスと脱脂米ヌカを原料としてできています。高温で熱し、一度微生物や菌がほとんどいない状態にしてから出荷します。まっさらな状態にした肥料を土の中にまくと、微生物が爆発的に活性化し、増えるんです。例えるなら、腹をすかせた状態の人の目の前にステーキを置く状態です。
旨味成分の素である「アミノ酸」を含んでいるのでできたお米もアミノ酸の量が格段に多い。お米に使うと、ぬかと白米の間にあるアミノ酸の層が厚くなります。食べた時にお米本来の旨みを感じることができます。微生物がうまく働くと、良い土ができて、良い作物ができます。他の化学肥料を使用している田んぼの稲と比べると、ずいぶん頼りなさげに見えるでしょう。
今はまだ細くてひょろひょろとしていますが、秋にはちゃんと追いついているんですよ。無理をせずにゆっくりと育っていくんです。即効性はありませんが、ゆるやかに土壌が改良されていきます。
――実際に使用してみてどうでしょう。
及川 有機栽培は手がかかります。収量もそんなに多くはありませんが、とても美味しいものができあがっています。苗の段階から阿部さんの肥料を使っているので、大きくなってから与えても相性が良いです。もちろん天気や温度が関わってくるので、肥料もタイミングと量を相談しながら与えていきます。
阿部 もちろん、及川さんが丹精こめて育ててくれていることが一番ですけどね。毎日田んぼに向き合ってくれている。手間がかかっている分、おいしくて、安全なお米になっています。
及川 有機をはじめて4年目、とりあえず3年やってみよう、ということではじめましたが、手をかけた分味が良くなる、やりがいがあります。
阿部 栄養価は化学肥料を使ったお米に比べて、はるかに高いです。見た目ではわからないのがもったいないくらいですね。
――印象に残っていることはありますか
阿部 1年目、稲刈りの頃に及川さんの田んぼの上を赤トンボがたくさん飛んでいたんです。今までに見たことのないくらいの量。洋服についても逃げないんですよ。有機にした初年度だったので、あの時はこんなにはやく結果が出るなんて、と驚きましたね。
手間をかける米づくりは、大変さもあるけどおもしろい
――美味しいお米づくり、楽しいですか?
及川 もっとゆっくりのんびりやれたら楽しい、かな(笑)。忙しい中でももっと美味しい、いいものを作ろうと、手間をかけ試していくのは大変さもありますけど、「おもしろい」です。
阿部 そうですね。「おもしろい」です。私、及川さんに言わないで、田んぼの写真だけ撮りに来ていることがあるんです。生育状態が気になって。どうやったら根がはるか、味がのるか、勉強しながら。農家じゃないのにお米づくりの最先端を楽しめています。
――おふたりがタッグを組まれてから4年目ということですが、今後まだまだパワーアップしていきそうですね。
及川 農業をやっている人も少なくなってきているのもあり、収量にこだわらず、いいもの、おいしいものを作っていきたい。今までの経験や知識でやってきたことに、阿部さんが持ってくる肥料や情報をプラスすることで、また良いものになる、それを繰り返していくと、データが良い結果で表れてくる。その結果を見ていると勉強になりますね。
さらに美味しくなる、という情報ももらっているので楽しみです。その年の気候によっても変わってくるのですが、同じ年のものよりは美味しいものを提供していきたいですね。
阿部 たくさんの情報が入ってくる中で、良いと思った新ノウハウはすぐに及川さんの田んぼで試す。肥料の面だけでなく、「このひと手間をやるといいらしい」とか、「これをプラスしてみよう」とかね。良い情報が入ると及川さんにすぐに電話してしまいます。今年はさらにいろいろやってみているので秋が楽しみですね。
及川 そうなんです、いま日本で試されている「お米業界の最先端」が生きている、すごい田んぼなんですよ。流行していること、これからどんどん広まるようなことが行われています。
毎年秋の収穫の時季は、今までやってきたことの答え合わせ…のようなものになります。やった分が返ってくる。できた米を知人にあげて、「美味しい」と言ってもらえると、やっぱり嬉しいですね。お弁当の評判も良い、喜んでいただけたという声も聴くのでそれも嬉しいです。
毎年反省もありますけど、それに対してもっとやれることが見つかるので、毎年どんどん良くなっています。十分に目を行き届かせれる範囲の田んぼで、有機で美味しいお米が作れるように頑張っていきます。
編集後記
この日は今にも雨が降りそうな曇天でしたが、とてもキレイな田んぼが印象的でした。
縁にたなびく田んぼの前で、笑顔でインタビューに応えてくれたお二人、日々の積み重ね、試行錯誤が、お米のファンをつくり、モチベーションとなっていることを強く感じました。
今後も是非、美味しいお米を作り続けていただきたいです!
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